「わたしは妊娠中絶をした」

lefteye692006-08-16


いま、アメリカのフェミニスト雑誌「ミズ(Ms.)」が、過去に中絶経験のある一般女性の署名をもとめる中絶禁止反対キャンペーンを展開している。

ミズ(Ms.)は、1972年にワンダーウーマンの表紙(画像)で鮮烈なデビューを飾ったフェミ系雑誌。創刊号では、著名な女性53人が過去に中絶手術を受けたことを誌上で宣言し、中絶禁止法の撤廃を訴えた。これは、前年1971年にフランスで公表された中絶禁止をめぐる女性たちの声明文にならったもので、フランスでは著名人の女性343人が「私は中絶を行ったことがある」と署名した。1972年当時、アメリカのほとんどの州で中絶が違法だったため、この大胆な請願書は話題をよんだ。その後、1973年1月に出たロー対ウェイド裁判の判決で、アメリカ全土で、妊娠3ヶ月以内の中絶が合法化されることになった。

さて、ロー判決から33年目の今年2006年2月。アメリカ・サウスダコタ州で、ロー判決をくつがえすような事態が発生した。母体に命の危険がある場合以外の中絶を禁止する、という法案が可決されたのだ。この法案によると、レイプ被害による妊娠や近親間の妊娠でも中絶はできなくなる。3月には州知事がこの法案にサインしたため、この7月には施行されることになっていた(ひぃ!)。が、6月19日、この法律の賛否を問う州民投票を求めた署名が規定以上集まったため、州民投票が11月に実施されることになり、それまで妊娠中絶禁止令は停止ということになった。

そこで、ミズは1971年のキャンペーンを拡大し、一般女性にも請願書への参加をもとめるキャンペーンを開始したのだ(先月)。請願書は、以下の文章に署名をする方式になっている。

「安全で合法的なアクセスしやすい妊娠中絶とバースコントロールをもとめる女たちの請願書」
□ 私は中絶をしたことがあります。私はアメリカにいる何百万もの中絶を経験した女性たちに公に加わり、女性の生殖の自由を制限する法律の改定をもとめます。(氏名、住所、連絡先)

残念ながら(?)この請願書はアメリカにいる人に署名を限っているようだ。が、請願書の呼びかけ文では、アメリカにいる女性だけでなく、世界中の女性の中絶の権利をもとめている。具体的には、やはり、ブッシュ政権によるグローバル・ギャグ・ルール(国際的な口封じ法)*1が挙げられていて、アメリカ政府の対外政策が、毎年中絶手術の失敗で亡くなっている推定7万人の少女&女性や、妊産婦の死亡者50万人の死に貢献していると書いてある。ちなみにグローバル・ギャグ・ルールの問題点は、医療従事者が中絶情報を提供することさえできなくなっていること、資金提供停止や供給が不適切であること、禁欲のみを教える教育に資金援助していること、と指摘されていた。

ミズ掲載のニュースによると、オハイオ州では、母体の命に危険がある場合の中絶も禁止するという中絶完全禁止法が検討されているという。胎児の命を守れ!といいつつ母親の命は無視!? ここまで来たら何がやりたいのかさっぱりわからない。

とはいえ、日本でもぼやぼやしてられないと思う。日本政府ってアメリカに追随しがちだし。あとバックラッシュとかも流行ってるしな。

■Ms.の中絶禁止反対の請願書
Women's Petition for Abortion and Birth Control
■その呼びかけ文
http://www.msmagazine.com/radar/2006-07-24-we-had-abortions.asp
オハイオ州の極端な法案ニュース(Ms.)
Ohio Considers Extreme Abortion Ban

*1:グローバル・ギャグ・ルール(global gag role、国際的な口封じ法):グローバル・ギャグ・ルールはレーガン政権が実施したメキシコ・シティ政策を、2001年ブッシュ政権が復活させたもので、中絶に関わりのある組織や活動には米政府から資金援助をしないというもの。これにより貧困国/地域で活動しているリプロヘルス分野のNGOが活動できなくなり、サポートが必要な層に支援が届かなくなるなど深刻な影響が生じている。