ヘルスケアの倫理に対するフェミニストアプローチ

こないだ購入したNew Perspectives in Healthcare Ethics: An Interdisciplinary and Crosscultural Approach (Basic Ethics in Action)。倫理に対するフェミニストアプローチは、読んだときは「そうか〜」と思いつつ、実際にどの現場で倫理が使われているのかピンと来なかった。が、ここだったのか〜という文献がブログで紹介されていた。

●ナラティブエシックス普及委員会
フェミニストモデルの倫理コンサルテーション


この記事を読んで触発され、上の本の該当部分をもう一回読んでまとめてみた。

New Perspectives in Healthcare Ethics: An Interdisciplinary and Crosscultural Approach (Basic Ethics in Action)
Feminist Approaches to Ethics (chap.2 pp22-24)


ヘルスケアに関する倫理への、フェミニスト的アプローチは大きく次の2つに分けられる。
1)ケアに焦点をあてたフェミニスト・アプローチ(Care-focused)
2)力関係(権力構造)に焦点をあてたフェミニスト・アプローチ(Power-focused)

1)の代表的論者はキャロル・ギリガン。
もうひとつの声―男女の道徳観のちがいと女性のアイデンティティ』(1982)で道徳発達における性差の説明。コールバーグが発展させた道徳発達のプロセスは、「正義の倫理」を最上位においているが、これは男性の発達を前提にしたもの。女性においては「ケアの倫理」が広く行き渡っている、と主張。


2)のPower-focusedのフェミニストたちは、ギリガンの論は認めるものの、「ケアの倫理」が「正義の倫理」を上回るものだする位置づけには否定的。世界中で次第にケアが少なくなっている現状をみれば、「正義の倫理」は強調してもしるぎることはない、とする。そのため、セクシズム(性差別主義:フェミニストが伝統的に関心をよせてきた不平等)、階級的差別主義(classism)、自民族中心主義(エスノセントリズム)、異性愛中心主義(ヘテロセクシズム)、身体の不自由な人に対する差別(ableism)、エイジズム(年齢差別主義)などすべての「イズム(主義)」に対する防御が必要だと主張する。

Power-focusedフェミニスト倫理学者は、哲学者Alison Jaggerが提案した以下の3点を支持している。

  1. 女性の従属性を永続させている様々な行為や実践に対し、理路整然とした道徳批判をすること
  2. そのような行為や実践について、道徳的に正当と認められる方法を規定する
  3. 女性の解放を促進するような、道徳的に望ましい代替案を考える

(Feminist Ethics, in Encyclopedia of Ethics (Garland Reference Library of the Humanities, Vol. 925), 1992)

ただし、これらは女性のみに限定されるものではない。Power-focusedフェミニスト倫理学者の最終目標は、女性(ひとつの階級や集団とみなす)が伝統的に経験してきたような抑圧の「種類」を特定し除去すること。なので、Power-focusedフェミニストは、まず「どのように、このヘルスケア・ポリシーは女性に影響しているのか?」という感じの質問からスタートし、「このヘルスケア・ポリシーは、女性と同様、あるいは女性よりさらに脆弱なグループに、どのように影響をおよぼしているか?」という問いで締めくくることが多い。

最期のまとめ、どうなの? なんか投げやりじゃない?

ちなみに、この項目は以下の部分に含まれている。
●西洋の主な倫理理論:パーソナルな世界観の模造物(pp9-24)
A. Utility-based Ethics (Utilitarianism)/B. Duty-based Ethics (Deontology)/C. Virtue-based Ethics/D. Natural Law -based Ethics/E. Rights-based Theories (Contractarianism)/F. Feminist Approaches to Ethics